実はアジャイル苦手だったんですという話

Mayu Nakamura
Dec 22, 2021

この記事はAgile Japan2021のアドベントカレンダー向けに書かれたものです。他のみなさんの記事はこちらから

こんにちは、デジタルプロダクトスタジオustwoでデザイナーをしているMayuと申します。Agile Japan 2021では、Lars RosengrenのAMAでサポートとして参加させていただきました。今年初めて参加したのですが、アジャイルに情熱を持ったみなさんのお話や、Discordで大盛り上がりのコメントが見られて、感激の2日間でした。

さてこの記事では、いちデザイナーから見たアジャイルの体験について書いてみたいと思います。

私がustwoに入った十◯年前は、会社もまだ「デザインスタジオ」であり、従業員もデザイナーがほとんどでした。クライアント向けにデザインをし、UIスペックを作って納品し、それを受け取ったクライアントの社内IT部門や他の開発企業が形にする、という完全なウォーターフォール。しかし、そのプロセスの非効率性から徐々にデザイナーと開発が一緒に「プロダクトチーム」として動いていく流れになり、社内にも開発メンバーが増えていきます。

当時デザインの方もUXデザイナーを中心に「ユーザー中心設計」がようやく馴染んできたころ。そこに開発メンバーが中心になってアジャイルを推し進める流れになっていきました。UXが専門の私は、ユーザー中心設計を社内外で啓蒙しつつ、アジャイルは逆に、開発メンバーに巻き込まれながら学んできたという感じです。本を読んだりして勉強してきたものの、学校できちんと勉強したわけではありませんし、1番の教科書はひたすら実践でした。

実は私は始めの頃、アジャイルが苦手だと感じていました。

今思えば、開発のみんなもデザイナーを巻き込んだアジャイルは初めてだっただろうし、デザイナーはデザイナーでアジャイルの事を全く知らない状態だったので、とにかく手探り状態。よくわからないもの同士が頼るものとして中心に「スクラム」があり、ルールに沿って忠実に進めていました。当時の私のアジャイルの理解はとても表面的で、「2週間スプリントで進める」「プランニングポーカーやる、毎日スタンドアップやる、デモでなんか見せる、レトロスペクティブをやる」…といった「何をするか」だけに意識がいっており、「なぜやるのか」への理解が抜け落ちていました。

アジャイルという、元々開発向けに作られたフレームワークに、*何の理解も考えも無しに*デザインが入るのはやはり辛い!例えば、細かくわけられたユーザーストーリー。開発であればある程度小さなモジュールとして作ることに違和感はないかも知れません。ですが、デザインは全体の調和と細かいあしらいを行ったり来たりしながら進めていくので、いきなり「このスプリントでは、この画面の一番上のボタンだけデザインしてください。他はまだ手をつけないで!」と言われると戸惑ってしまいます。(いや、さすがにそんなリクエストしないでしょ…と思われるかも知れませんが、実話です!)また、プランニングポーカーなども、まだどんなソリューションがベストかわからない状態で「どの位でできそうか予測しろ」と言われても「いや…1でやる方法もあるけどもう少しユーザーにベストな方法を模索したいし…そしたら13かも知れんよ?」みたいな話になってしまい、これでは開発も見積もりできません。げっそりした顔でミーティングルームから出てきた先輩デザイナーが「もうまる1日ポーカーやってるんすけど…」と呟いていた光景が忘れられません。

そんなこんなでデザイナー達はみるみるフラストレーションが溜まっていった訳ですが、「このやり方は馴染まない」という声が上がっても、「古いやり方に固執しないで。アジャイルとはこういうものだから!」と一蹴され、なんだか無理矢理型に押し込められている感じがしていました。

「いや、もうこれはアジャイルとか無理でしょ…」と思っていた私の見方を変えてくれたのが、Larsのトークのテーマでもあった「コーチ」の存在です。

ustwoでアジャイルコーチ文化を引っ張ってきたコーチの一人に、コリン・ライオンズという人がいます。彼と一緒にプロジェクトに関われた事で、私のアジャイルに対する認識は一気に変わりました。コリンは、アジャイルのプリンシプル…つまりハートはしっかり保ちつつ、チームの状況、個人の様子を見ながらアプローチに柔軟性を与える事のできるコーチでした。

Larsの話にもあった通り、プロジェクトの中では

  • 定期的にチームに振り返りの機会を与え、現状を認識し、改善のアクションがきちんと実行されるよう促し
  • チームが何かにつまづいたり、リズムを掴めなかったりしていたら、障害となっているものを見極め、それを無くすために関係各所とかけあい、
  • チームが思考停止していたら、少し角度の違う視点を与えてくれる

といった事をこなしていました。しかも導き方が巧い。人間、自分が考えている事と違う方法を提案されたり、他のチームメンバーと意見がぶつかっている時は感情的に反発してしまうのものですが、そこを「まず1週間試してみようよ。ダメだったらまた変えればいいんだから。」とニコニコ顔でみんなの気持ちを乗せるのです。(どんなニコニコ顔かはぜひ下の動画でご確認ください!)

また、最終的にチームに主体性を持たせてくれていたのも印象に残っています。コーチングでチームに力を与えてはくれますが、決断をして前進するための一歩を踏むのは自分たちなのです。

当時いちデザイナーだった私は気付いていませんでしたが、チームだけでなくクライアント側であるPOのフォローもしていたので、これは相当なコミュニケーション努力だったはずです。人と人とのダイナミクスを見極めた信頼関係作りが圧倒的に巧かったコリンのおかげで、試行錯誤しながらもチームは少しずつワンチームとして成長していきました。

この経験がなかったら、私は今でもアジャイル嫌いなデザイナーだったかも知れません。でも、これが単なる儀式をなぞるものではなく、アジャイルのハートを持ちながらチームとしてベストな選択をし、開発の人たちの隣に座ってアイデアが実現されていく瞬間を一緒に楽しみ、チームとして成長していくことだと学んでから、リラックスしてアジャイルなプロジェクトに取り組み、その楽しさを体験できるようになった気がします。Larsのトークでも触れられていましたが、その後ustwoではアジャイルのハートを元に会社全体のプリンシプルが作られ、文化としてのアジャイルが浸透していきました。

皆さんはどんな「アジャイルとの出会い」がありましたか?日本に帰ってきた今、日本の開発のみなさん、デザイナーさん達とももっとアジャイルの楽しさを共有していけたらなと思っています。また来年のAgile Japanを楽しみにしています!

--

--

Mayu Nakamura

Digital product design lead @ustwo. Believes in UCD. Mindfulness padawan. Music, SciFi, Crime fiction addict.